hittyのブログ

ちょっと調子の悪いオヤジのネット起業奮戦記

フランケンシュタインの腕

ご来訪いただき、有難うございます!



友達と打ち合わせで近くのバーに行き
ました。静かなジャズが控えめな音で
流れている石神井公園にしてはお洒落
な店です。店の中にはカウンターに座
る我々2人と後ろの席に1人で座って
いるマスターとバーテンの女性とで計
4人。バーテンの女性が飲み物を出し
てくれた時、わたしの腕を見ると


「あれ?お客さんの腕、ピクピク動い
てますね?傷もたくさんあるから肉体
労働系ですか?」



フランケンシュタインの腕


と明るく笑顔で訊いて来ました。私が
友達の顔を見ると、クックックッと下
を向いて笑っています。何となく茶目
っ気が湧いて来て、


「フランケンシュタインて知ってる?」


と言ってみました。彼女は小さく「え
っ?」と言った後、


「あの化け物のフランケンシュタイン
のコトですか?」


と言うので、わたしは、


「あの話はとても切ないラブストーリ
ーだと思っている身としては『化け物
の』と言われると、ちょっと寂しく感
じるけど…」


と言いました。彼女は慌てて、


「ごめんなさい。あの話をちゃんと読
んだコトがないのでよく知らないんで
す。今度、ちゃんと読んでみます。切
ないラブストーリーかも知れないって
いうコトを頭に置いた上で…。で、フ
ランケンシュタインがどうしたんです
か?」


そう言って頭を下げてからわたしの目
を覗き込んで来るので、


「あ、いや、実は以前、左腕を切り落
としちゃってね。肩の方から縫って付
け足した腕なんだ。だから傷は多いし
ビクビク動いてもいるんだよ」


そう言って、左手でグラスを持って口
に付けると、


「え?またまた~。縫い付けた腕がそ
んなに滑らかに動く訳ないじゃないで
すか?私のコト、ダマそうとしてそん
なコトを言って…。私だったら、そん
なにピクピクしてる可愛い腕なら腕枕
してもらって寝たいって思っちゃいま
すよ。」


そう言って、うふふと笑っています。


「あ、ありがとう。この腕を恐がらな
い女性が居て嬉しいよ。でもうるさく
てこの腕枕じゃ寝られないと思うよ」


と言うと「?」という顔をするので、


「イヤじゃなかったら、俺の腕のピク
ピクしてる所に耳を付けて音を聴いて
ごらん。」


と言うと、彼女はわたしの腕に耳を近
付けましたが、「えっ?」と言うと、
カウンターから出て来て私の腕の音を
聴きやすいようにすぐそばに来てピッ
タリ耳をくっ付けて、驚いたように言
いました。


「あぁ、ごめんなさい。お客さんは嘘
を言ってるって勝手に決めつけてすみ
ませんでした。何か機械で腕を動かし
てるんですか?血管から聞こえる音が
ゴーンゴーンて言ってます。」


と神妙な顔をしています。隣の友達が
とうとう吹き出しました。


「本当にフランケンシュタインみたい
だって思っちゃうよね?俺も引っ掛か
ったからその気持ちはよくわかるよ」


そう言って後ろのテーブルに座ってい
るマスターの方を見ました。マスター
がわたしの方を見て、


「もう勘弁してあげて。種明かしをし
てあげてよ。ココに居る3人とも同じ
話でダマされたんだから…」


というので、種明かしをしました。


「俺は慢性腎不全ていう病気だから、
血液透析っていうのをするために腕に
シャントっていう動脈と静脈をつない
だ普通の人には無い血管のようなもの
を手術で作ってあるからゴーンゴーン
っていう凄い血流の音がするんだよ」


すると彼女が、


「じゃあ、その縫い合わせたような跡
はどうしたんですか?火傷ですか?」


と訊くので、


「いや、毎回毎回太い針を刺している
と肌がよれて行くんだよ。管を止める
ためのテープにかぶれたり、だんだん
ケロイド状になって行ったんだ。ココ
にはもう針を刺さない方がいいってい
うコトになって、今は上と下の2か所
に分けて針を刺してるんだ。この2か
所もだいぶ危なくなってるから、また
別の場所を見つけないといけないねっ
て看護師さんと言ってるんだ」


バーテンさんは、「へえ~」っと驚き
ながら聞いています。するとマスター
が、バーテンさんに、


「これで身体障害者1級だって言うん
だから…。全然そんなふうには見えな
いだろう?」


と言うと、バーテンさんは、


「それは見えないですね。私は肉体労
働系だと思ったくらいですから…」


と言って爆笑になりました。




後日その店に寄った時、そのバーテン
の女性から言われました。


「フランケンシュタインって人造人間
の方の名前ではないんですね。作った
人がフランケンシュタイン。切ないラ
ブストーリーとして読める話もあるの
がわかりました。ゴシック小説として
最初に書かれた話は、やはり化け物小
説のような気がしますが、フランケン
シュタインの花嫁やヤングフランケン
シュタイン等の派生作品は切ないラブ
ストーリーとしても読めるような気が
しました。でも、ズーッとあのゴーン
ゴーンていう音が耳の奥で聴こえてい
るような気がしていました。もし、フ
ランケンシュタインが切ないラブスト
ーリーだと思うって言われてなければ
興味を持たなかったと思うし、あの腕
の音を聴かなければ、切ないラブスト
ーリーに出逢うまで探そうとも思わな
かった気がします。いろんな意味で、
ありがとうございました。こんなに1
つの作品を深く調べたのは初めてです
し、こういうのも面白いって感じまし
た。私の中に新しい興味を作っていた
だいたような感じです。本当にありが
とうございました!」


わたしは彼女の素晴らしい感性から出
る言葉を聞いて、こう言いました。


「いや、それはアナタが元々持ってい
た才能が素敵なんだと思います。俺は
くだらないコト言ってダマしただけだ
から…。面白いコトが増えたのは良か
ったですね」


彼女はその後も何度かありがとうと言
ってくれます。友達やマスターとは違
う反応をもらって、何だか少しくすぐ
ったい気がします(^o^)v。