hittyのブログ

ちょっと調子の悪いオヤジのネット起業奮戦記

「芸術家なんて裸を描いてエロいだけじゃん!」――或る中学美術女性教師のイカした回答――

ご来訪いただき、有難うございます!


思春期の男の子にとって、女性を裸に
して、芸術だと言って、ヌードの絵を
描いている男性画家という人種は、自
分に好きな女性が出来たら、最も警戒
すべき人種の1つだと思っていました。


言葉巧みに脱がしてしまい、それを絵
に描いて脅迫まがいのコトをするから
その絵を発表できるんだと思っていま
した。


海外の画家たちは、恋人を描いている
のかなあ…と思っていました。女性の
表情が日本人画家のモノより穏やかで
にこやかなモノが多いなあと思ってい
たからです。


学校で山種美術館の入場券を無料で配
っていて、その頃、切手のコレクショ
ンをしていたので、逓信総合博物館に
行った帰りに、寄ってみました。


そこで、とんでもない絵に出逢います。


バックに流れる動的な水の流れの滝の
前に、カラダを横たえた一糸まとわぬ
女性が足を広げて静的にポーズを取っ
ているのです。


この絵を見た途端、その絵の前から離
れられなくなりました。



杉山寧(すぎやまやすし)さんの『響』
という作品です。この絵を見たら脅迫
まがいのコトをして発表しているとは
全く思えませんでした。


頭の中がコンフューズしてしまい、絵
って何なんだろう?とわからなくなっ
てしまいました。


その絵と出逢ってすぐの美術の授業で、
苗字が変わったばかりの美術の女性教
師が、


「美術に関するコトで、どんな質問で
もいいから、わからないコトがあった
ら訊いてみて。答えられる限り、がん
ばって答えるから…」


と言いました。友達が、


「先生の苗字が変わったのは、結婚で
すか?離婚ですか?」


と訊いて、先生は、


「美術に関係ないけど…、離婚だよ」


と答えて、クラスの男子達は、えっ?
今まで結婚してたのかよ!とか言って
一しきり騒いだ後、わたしが、


「男性画家って、モデルさんを裸にし
て、芸術の名のもとに、ただむっつり
スケベなだけなんだと思ってたんです。
ところが、とんでもない構図なのに、
全然イヤなエロさじゃなくて、その絵
に引き込まれるような経験をしちゃっ
たんです。俺って、とんでもない、ド
スケベなんでしょうか?」


と訊きました。先生は、


「ドスケベかどうかが訊きたいの?」


と言いました。わたしは、


「たぶん、1番訊きたいのは、芸術だ
からと言って、どうして裸を描かなき
ゃイケないのか?ってコトだったんだ
けど、その絵を見てから、裸を描くの
って何か意味があるよな…と思っちゃ
ったんです。そのカラダがすごく綺麗
で…」


と言ったもんだから、男子達は、やれ
ドスケベだ、変態だ、とやんやヤンヤ
と囃し立てました。女子も、イヤだ、
と顔を赤らめたりしていました。


先生は、少しクラスが静まるまで何か
考えている表情で、


「その画家さんの名前、わかる?」


というので、「すぎやまやすし」と答
えました。「作品名は?わからないか
な?」と言ったんですけど、


「響(きょう)」


と答えました。先生はにこやかに、


「来週の授業で、今の質問の答えを、
私なりにちゃんと考えて伝えるね。と
ても素敵な質問だと思います」


と言って、その日の授業は終わりまし
た。次の授業の時、先生は、ほぼわた
しが美術館で観たのと同じくらいのサ
イズのその絵を黒板に貼りました。


「杉山寧画伯の『響』という作品のカ
ラーコピーです。実際には、もっとオ
レンジ系の発色がいいんだけど、これ
で我慢してください」


と言いました。何人かは、ドスケベと
か、変態とか騒いでいましたが、ほと
んどの生徒は、その絵の存在感に圧倒
されたようで、わたしと同じように、
その絵から目が離せなくなっているよ
うでした。先生は、


「もう1枚、見て欲しい絵があります」


と言って、黒板にもう1枚の絵を貼り
ました。



「これも杉山先生の『暦』という作品
です。息子さんの妻子を描いたもので
親から子へと引き継がれていく生命の
連続に対する深い感動が描かれている
と言われています」


女子も目をそらさずに、しっかり見て
いました。先生は、


「前回の授業で、Yくんは『どうして
芸術だからって裸を描かなければなら
ないんだろう?』という疑問をぶつけ
てくれました。そして、『裸を描く意
味が何かあるような気がする』とも言
っていました。この『歴』という作品
はとても考え抜かれたデザインで描か
れているから気がつかないかも知れな
いけど、画家が裸を描くヒントがこの
絵の中に隠れているんです。いったい
何だと思いますか?」


洋服が大好きで、自分で作ったりする
と言っている女子が、


「考え抜かれたデザイン…。この女性
は襟が付いていない服を着てます。襟
の形って時代を映すモードが1番出易
いってよく言いますよね?それが理由
かも知れないなあ…って」


と答えてくれました。先生は笑顔で、


「完璧!素晴しいわ。そう。先生もそ
れが理由じゃないか?と思うの」


と嬉しそうに言いました。そして、


「美大時代にね、あまり好きじゃない
先輩に、『キミの美しさを永遠にする
ために、僕のモデルになってもらえな
いだろうか?』と熱心に口説かれたコ
トがあったの。ヌード・モデルになっ
て欲しいっていう話で、お断りしたん
だけど、尊敬している先輩や好きな先
輩に、ああ言われたら、モデルをやっ
たかも知れないなあ…と思うの。『キ
ミの美を永遠にする』って、着ている
モノのモードの流行が変われば古く感
じちゃうじゃない?1番モードに左右
されないのは、何も着ていないコト。
裸は昔も今も古くならない。いつでも
1番新鮮な気がするの」


そう言って、『響』の前に立つと、


「この絵は古くならない。古くなる所
がないのよ。Yくんは、きっとそれを
感じたんだと思うの。人のカラダさえ
自然の一部のような構図がそれを演出
していると思う」


この授業は感動しました。先生は少な
くとも1週間、わたしに伝えたいコト
をプレゼンするための時間を使ってく
れたんだなあ…。杉山寧さんのいろい
ろな絵を見て、『歴』という絵を答え
に近付くために見せてくれたんだ…。


女子生徒の発言で、わかりやすく気付
くコトが出来た。その子にも感謝しま
した。


それ以来、ヒマが出来ると美術館へ行
ったりするようになりました。


その美術の女性教師がその日の最後に
こんなコトを言ったからです。


「絵が上手い人もそうでない人も居る。
でも、絵って、それを見る専門家も居
るのよ。描けるコトだけが素晴しいん
じゃない。それを見て心を動かせる人
も素晴しい。だから、絵を見てその感
じたままを言葉に出来れば、誰かにそ
の思いを伝えられる。皆さんは、芸術
の場に参加し続けてください」


コっぱずかしい質問の見返りが、素敵
な授業で、ものすごく得した気分にな
ったのは、言うまでもありません。