hittyのブログ

ちょっと調子の悪いオヤジのネット起業奮戦記

迷い道――現在・過去・未来――

ご来訪いただき、有難うございます!


『思い出』っていうと、過去のモノだ
と思い込んでいますよね?


思い出って上書きできるって知ってま
したか?


時制で並べると、過去・現在・未来で
すよね?なのに、渡辺真知子さんが歌
った「迷い道」っていう曲の冒頭で、


♪現在・過去・未来~


と歌い始めるんです。どうして、過去、
現在、未来じゃないんだろう?と、と
ても不思議で悩んだ記憶があります。


今から干支で1回りくらい前の思い出
話なんですが…。


その疑問に答えをくれた同級生の女性
がいます。彼女はあまり目立たない子
でした。わたしが以前、夜の地元で飲
み歩いていた時期に、わたしがボトル
を何本もキープしていた店で、バッタ
リ会いました。彼女から、


「あ、Yくん(わたしのコトです)…」


と 声をかけられました。わたしは、


「お、偶然!。すごくしばらくぶりだ
ね。卒業してから何年になる?」


と訊きました。中学を卒業してから30
年ぶりくらいで、その間に一度同窓会
があったんですが、8クラスもあった
中学だったので、その子とは話を出来
なかったという記憶だけでした。


中1の時、同じクラスだっただけで、
わたしは野球部だったので、女子とは
同じ部活にはならなかった時代の話で
す。彼女がわたしを好きだ、という噂
を耳にしたコトはありましたが、特に
告白された訳でもありませんでした。
いや、告白されたとは思っていません
でした。


その頃はわたしが人生の中で1番モテ
まくっていた時期で、わたしの中学で
は生徒手帳のカバーが男子は紺、女子
がエンジ色だったんですけど、付き合
っている女子と生徒手帳のカバーを交
換する、という決まりのようなモノが
あって、わたしが知らない所で、女の
子同士が話し合ったり決闘したりして、


「わたしがYくんと付き合うコトにな
ったから…」


と言いに来て、「生徒手帳、貸して」
と言って、わたしの生徒手帳のカバー
を替えて、「このカバーは本人に返し
ておくから」と自動的に切り替わるシ
ステムが発動していた頃の話です。


もっともそうなったのはわたしがイケ
なかったと思います。野球に打ち込み
たい時期だったのに、放課後になると
女子が呼び出して来るんです。放課後
といえば野球部の練習があって集中し
たいのに、1週間続いて呼び出された
時に、


「ああ、面倒くせ~。そんなに好きな
ら俺に野球をやらせてくれよ。好きに
話し合って、俺の生徒手帳のカバーは
持ってっていいから!」


と言ったんです。その後、女子同士で
勝手にやっていたので、誰がわたしと
付き合ったコトがあると思っているの
か、正確には把握していません。


或る日、野球部でキャッチャーをやっ
ていた友達が、わたしの教室に来て、


「Y、地理の教科書、貸して。忘れち
ゃった」


と言うので、


「机の中に入ってるから、持ってって
いいぞ」


と答えました。そいつは机をガサガサ
探して、何かを取り出して、口の中に
入れました。


「うまい。おまえいつもこうやって授
業中にお菓子食ってんのかよ」


と言われたんですが、心当たりがあり
ません。机の所に戻って、見てみると
確かにアルファベットの形をしたクッ
キーが入っています。クラスの友達も


「お、いいな。俺も、もーらい!」


などと言って食べてしまいます。わた
しも食べました。バターの味が少し強
めで美味しいクッキーでした。


「うまいなあ。だけど、俺のじゃねー
ぜ。誰かが入れておいたんだったら、
無くなっちゃって困ってねーか?」


と訊きましたが、キャッチャーは、


「おまえの机に入ってたんだからおま
えのモンだろう。誰かのだったら謝っ
ておいてくれ、Yが」


「そりゃないだろう、U(キャッチャ
ーのコトです)」


というコトがあったコトは憶えていま
した。彼女が、


「あのクッキー入れておいたの、あた
しだったんだ…」


と言うんです。いきなり30年ぶりにそ
う言われました。わたしは、どんな反
応をすればいいのか、全く解らなくて


「ごめん。あのクッキー黙って食っち
ゃって。バターの味が美味しかったの
は憶えてるんだけど…」


という間抜けな返事をしてしまいまし
た。彼女は、


「今日だって、Yくんは偶然て言った
よね?あたしは、ここにYくんが来る
らしいって訊いたから来てるんだよ」


と言うんです。45歳くらいになって、
中学時代のクッキーの敵討ちに合うと
は思ってもいなくて、


「ごめんよ。その後、クッキーの持ち
主を探しもしないで。本当にごめん」


と言ったら、その子は、


「ひとつでも食べてくれてよかった。
あのクッキーで、あたしは何を伝えた
かったかわかる?」


正直、「はっ?」という感じでした。


なにをつたえたかったか、わかる?


クッキーで? …何のコト?


そう思いました。その子は、


「I LOVE YOU TO H
FROM S」


と並べられるようにクッキーを焼いて
来てくれたんだそうです。


「そう並べてから食べて欲しかったの。
でも、Uが先に気付いて食べちゃった
から、Yくんの所為じゃないけどね」


それを全部見ていた彼女の気持ちを考
えると、いたたまれない気持ちになっ
て、


「ごめんね。そういうコトに全く気が
回らなくて…。それは辛い思いさせち
ゃったね…」


と言うと、彼女はニコニコ笑って、


「でも、あの頃の気持ちを1番伝えら
れたのは、きっとあたしになったと思
うよ。だから、もういい。あの頃Yく
んを好きになった子って、切なかった
と思うよ。自分の生徒手帳のカバーを
つけてくれてる女の子のコト、知らな
かったでしょう?MなんかY子から勝
ち取ったって報告に行ったら、キミは
何組の誰?って言われたって泣いてた
んだから…」


他のクラスの子だと、わからない子が
いっぱい居たよ。でも、その頃、俺が
好きだったのは、1つ上の先輩だった
から…。


「あ、それ、卒業してから野球部のK
に聞いたよ。Yは先輩が好きだったの
に、或る女子にそれを言ったら、私達
がいるのに、何て裏切りなの?その先
輩を兄貴に言って、イジメてやるって
言った子が居たんだってね。それ以来
Yは先輩が好きだって言わなくなった
って…」


うん、その通り。しかも、俺、何も裏
切ってねーだろう?誰を好きになろう
が自由な筈だろう?それにまだガキだ
ったから、女子より野球だったんだよ
な。でもSちゃんのそんな素敵な告白
に気がつきもしないのは、ヒドイね。
本当にごめんね。


「じゃあ、一杯ご馳走してくれる?」


と言うので、好きなのをどうぞ、と言
うと、


「Yくんのその綺麗なボトルのを飲ま
せて。それで許してあげる」


と、ハーパーの12年のボトルを指さし
ました。実はその頃、そのスナックで
そのボトルを入れているのはわたしだ
けでした。ママに頼んで入れてもらっ
ていたので、そのボトルから飲める人
は、店で働いている人だけだと思って
いたそうです。


「店の人以外ではあたしだけよね?」


と言うので、いや、カミさんも飲むけ
ど?と答えたら、今度は、


「ボトルに書いてある言葉、少し期待
しちゃった。全くあたしとは関係なか
ったんだね」


と言い出しました。わたしのボトルに
は、必ず、


 純に生き
  淳に殉ずる 果報者


と書いてありました。どの店でも必ず
そう書いていました。プロ野球の青バ
ットの大下選手の墓碑に、


 球に生き
  球に殉ず身 果報者


と刻まれているのを知り、カミさんが
淳子という名なので、その洒落で書い
ていました。地元で飲み始めたのは、
地元の草野球チームに入ったからだっ
たので、同じチームの人達も


「お、大下なんて渋い人知ってるね。
Yくんはその時代より後だろう?」


と、その話で結構盛り上がるので、い
つも書くようになりました。


Sちゃんは、「純」という字を使うの
で、そう言いましたが、カミさんの名
だと知ったのは、ママに訊いたからだ
そうです。


「このお店、Eの行きつけだから、こ
の間、ここで会ったんでしょう?その
話を聞いてから、毎週来てるんだ」


その日は、いろいろと話しました。


彼女は、帰り際、


「中学3年間より、今夜の方がふたり
で喋った時間は長いよね?きっと…」


と 嬉しそうに笑って、返って行きま
した。この夜のおかげで、中学時代に
わたしを好きでいてくれた1番インパ
クトのある女性が、Sちゃんになった
なあ…と思った途端、


あ、現在が過去にも未来にも影響する
から、現在・過去・未来なのか…


と思いました。


彼女と喋っている時に、彼女はこんな
コトを訊きました。


「もし、そのクッキーを並べてあたし
の告白だって気付いてたら、あたしと
付き合ってくれた?」


ああ、Sちゃんが告白してくれてたら
付き合ってたと思うよ、


と答えたのですが、


「完全に営業トークだよね。心がこも
ってない。でも、あの頃、付き合った
と思ってた子達より、直接聞けただけ
あたしは幸せだなあ…」


と言って見せた笑顔は、わたしが知る
限り、彼女の1番素敵な笑顔でした。


彼女は、


「ああ、あの頃、もっと話しかけてれ
ばよかったなあ…。こんなに話しやす
い人だと思ってなかった。もっと恐い
人だと思ってたなあ…」


と言うので、


「そう言ってくれてありがとう。でも
ね、たぶん、あの頃はこんなふうには
話せなかったよ。恥ずかしさが先に立
つからぶっきらぼうになるし、それに
何より自分のコトでいっぱいいっぱい
で、相手への思いやりだとか相手の気
持ちを考えた言葉は話せなかったよう
な気がするよ。あの頃はまだ、俺の人
生の主役で、回りの友達はみんな脇役
だったから。今なら、Sちゃんが主役
のSちゃんの人生と、俺が主役の人生
との接点を考えられるけど、あの頃は
それはわからなかったと思うから…」


と答えました。彼女は、


「あははは。そうだね。きっとそうだ
と思う。だから、話しにくかったんだ
よね。記憶って、現在の出来事でアッ
プデートされるけど、実際にはその時
の行動を認めるしかないのかも知れな
いね。今の話し方が、中学時代を思い
出させる感じだよねー。やっぱり変わ
らないんだよね。でも、今の考え方に
なった訳だから、時間をかければあの
頃から素質はあったんじゃないの?」


そう言って満足そうでした。彼女は、
現在も結婚はまだのようです。親の面
倒を見ながらの孝行娘で、仕事を一所
懸命して来たそうです。


「親にはお互い苦労するね。お父さん
の具合はどう?」


と言うので、


「ご心配ありがとう。もう亡くなった
よ。あれだけ飲んで逝ったんだから、
思い残すことは無かったんじゃないか
な?この店でも一緒に飲んだコトがあ
るよ」


と言うと、彼女が


「素敵なお父さんだなあ…と思ってた
んだ。Yくんが海で初めてヒトデを見
た時に、『空に星が光っているように
海にはヒトデが輝いたような形で存在
するんだよ』って言ったって、作文の
時間に書いてたのを、今でもハッキリ
憶えてる。『上の世界で在るコトは、
下の世界にも在るのかも知れない』っ
て結んでたよね?」


よく憶えてるなあ…と感心してしまい
ました。たしかに、書いたコトがあっ
たような気がします。


思い出は、アップデートしたり、呼び
起こされたりしながら、成長した自分
に気付かせてくれたりします。


人は、今、を生きています。現在と過
去と未来は、時間軸としては一緒に流
れているのかも知れません。